小説と独り言

趣味で書いているオリジナルキャラの小説と、なんか愚痴ってます

氾濫、錯乱

だらり、とたれる腕。
だらしなく開いた口から零れる血混じりの涎。
こめかみから流れる血液。
ボロボロに汚れて切れかかったYシャツから覗く白い肌と、そこから溢れる血液。
此奴、血液型って何型だったっけかな、と下らない事を考える。
先の少し尖った仕事用の革靴で頭を踏みつければ、
「っ、あ゛、あぐっ、」
なんて喘いでくれる。
善いもんだ、綺麗な身形の奴が、自らの手により堕ち、傷つき汚れていくのは。
まあ、それは殆ど此奴自信の責任なのだが。
愛用している折り畳み式のナイフを取り出して、地面で這い蹲っている奴に話しかけた。
「どんな気分だい?さっき負かした人間に復讐される気分ってもはよォ?」
取り出したナイフを此奴の喉に突きつければ、少しだけ口からヒュッと息が抜ける音が聞こえた。
嗚呼、人の生を失う間際の人間のなんと美しい事か。
人間は自らの命を落としそうになる前に本性を表す。
命の危険を感じたときに己の中にある猛獣やら悪獣やらを解き放つ。
そうでないものもいる事はいるのだけれど。
此奴の怯えた顔は、何より俺を喜色満面にさせる。
「さァ言えよ、どんな気分だ。自らの死が近づいてる時の気分をよ、俺に話せ。そして、俺を楽しませてよ」
そう言って、此奴の頬を掻っ切る。
頬は顔の中でも結構痛みに弱い場所。
ナイフで肉を抉られれば一溜まりもない。
だが此奴は耐えてみせた。
少し目を見開いて、唇を噛みしめていた。
唇と頬から鮮血が垂れ流れていく。 
白い肌に真っ赤な血はよく映える。
綺麗なもんだった。
痛みに耐えるために荒くなった鼻息が微細で美しい顔を覆っていた前髪を上に動かしていく。
其の顔に、少しだけ性欲を煽られる。
「…………いいなァ、其の顔」
「……っ!?」
此奴の身体に馬乗りになりながらそっと顔を近づける。
光を宿さない瞳に自分の顔が映っているのわかるまで、近づけた。
目の前の男は後ろに下がろうとするも、俺はそれを許さない。
「ね、もっと其の顔見せろよ」
思い切り振りかざした愛用している折り畳み式のナイフで、目の前の男の耳を掻っ切れば、一大事。


____ 阿鼻叫喚。


削ぎ落した耳は只の肉の塊と化し、そこから流れ出る鮮血は此奴の薄く黒い髪の毛を紅く、綺麗に染めていく。
「どうだよ、耳は流石に痛かったろ。どんな気持ち、なあ、どんな気持ちなんだよ」
痙攣している顔を此方に向けさせてまで答えさせたかったのには、ただの好奇心という理由しか持ち合わせていない。
ナイフで切った方の耳のあった場所を少し弄れば痛そうに顔を歪める、

「あは、」
 
筈だった。


「なんで笑ってんだ、手前」
その笑いに少し身を堅くする。遣りすぎて頭がイかれたかと思っていた。だけど、そうじゃなかった。
「あは、あはは、うふふ、あははははは」
笑っている。確かにこの目で笑っている姿を見た。
とても、気色の悪い、此奴の、笑顔。
「な、なんで、なんで笑って」
「情けない、下品な青年よ。殺してみるがいいさ」
初めて言葉を喋った。
今までは只の母音しかしゃべらなかった此奴が、俺に言葉を、話していた。
「今更僕にどんな拷問も通じないよ、片方の耳がどうした。寧ろもう殆ど使い物にならなくなって捨てようと思っていたところだよ」
「な、ななな、なに」
「前は指を2本持ってかれそうになったけど無事両方ともくっ付いた。首を切られたけれどあたりどこが悪くて死ねなかった。銃撃戦のド真ん中に入っても誰一人脳天心臓をぶち抜く人はいなかった。足を鋸で途中まで切ったり釘をさしたり針金を通したりしたけど、見ろよ、こんなに綺麗に戻るもんだ。耳は、そうだ、焼こうと思ったんだ。でも熱くて途中でやめたけど殆ど聞こえてない状態だったんだ。だから感謝してるよ。ねえ、君は僕をどうしたい?」
異常者だと思った。此奴の瞳孔はどこも見ていない。頭のねじが10本くらい亡くなっている、そう思ってもおかしくはない、そんな状態だった。
「あ、や、やめて」
「ねえ、君は僕をどうしたい?なら、殺し給えよ。僕を、この脳天を。止め給えよ、この心臓を」
いつの間にか形成は逆転して、もう、刃もまともに持てなくなった。
「さあ、ころしたまえよ、しょうねん」