お礼の勘定は少し先で
自分はなんて物好きなんだろうなって最近思うようになった。
元から女性を取っ替え引っ替えしている自分と同じ博士を好きになってしまうなんて、どうかしているだろう。
その取っ替え引っ替えしている理由があるから、気になってっていうのもある。
何故か、自分と同じように見てしまっていた、彼のこと。
バカじゃないのか、俺。
同じ境遇な訳がないのに。
「カレル、そこにあるカッター取って」
「ん」
今日もいつもと変わらない作業の毎日。
隣には自分が惚れた彼氏様がいる。
別になんてことばい毎日なのだが、何故だか今日に限って身体の調子がおかしい。
手元が狂ってしまいそうになるが、平然を装って作業に集中する。
それでも自分の身体の不具合はどうにもならなくて、目眩がして、頭痛がして、吐き気がして、腕が痛んで。
ぎしぎしと変な音が聞こえる。だめかな、もう立っていられない気がして。
カッターを手にしたまま、目の前がじわじわと暗くなっていく。
途切れる寸前の記憶には、自分の名前を呼ぶ声がした。
「…なんで調子悪いって言わないかな…」
「………迷惑かけると思って、言うのはやめた」
気付いたときにはベッドに寝かされていて、焦点が合わない視界が写し出したのはあまり見ない、これでもかという程に眉間に皺を寄せた水色の彼である。
ベッドに背中がくっついて、冷や汗がべっとりと染み付いている感覚が気持ち悪い。
「迷惑って…倒れられる方が迷惑だってこと知ってる?ねえ」
顔を近づけてカレルは俺に言う。
朦朧とする頭では聞き取れないと思ったのか、結構音量の大きい声だった。
声が頭に響いてまた頭痛がするが、それでも、彼の声は何故だか聞き心地が良かった。
「…悪かったな…迷惑かけて」
渋々謝れば目の前の水色はにこりと笑って、「迷惑じゃないけど、心配だった」と言った。
…迷惑って言ったのはどこのどいつだろう…。
「…じゃあさ、今日のお礼にミラージュに何か一つねだろうかな…」
「…え?」
カレルの楽しそうな声に少し顔が青くなるのがわかる。
でも、今日心配かけたし、仕方がないかと思う。
「…お気に召すまま…」
俺はその言葉を最後にまた深い眠りについた。