小説と独り言

趣味で書いているオリジナルキャラの小説と、なんか愚痴ってます

あのね、

"Trick or treat!!"
軽快な英語が私の耳に入る。
口にしたことも聞いたこともないその単語によく漫画で見るような「?」マークが頭に浮かぶ。
「…何やってんだろ…」
興味本心で声のする方へ覗きに行く事にした。
それが私の最悪も1日なる合図だとは知らずに…。


My first Halloween


「あ、なゆちゃんだ!」
さっき知らない単語を口にしていた雛の声が聞こえる。
ドアの方からひょっこり顔を出してみればよくわからないけど仮装した雛が彰斗の顔に落書きをしているところだった。
…異常な光景を見たな、と思って即刻退場しようと思ったのだが。
「なゆー!Treat or treat‼︎」
…今度は彩葉の声が後ろから聞こえる。それと何故か銃を向けられている感覚がする。
…いや、あながち間違えではないだろう。背中に冷たい鉛の感覚がある。
「…彩葉、何で銃を向けているの」
「あれ、だって今日はハロウィンですよ?」
「…知らないけど、銃を下ろして頂戴」
「だってまだお菓子貰ってないし…」
「いいから」
なゆの威勢に負けた彩葉が渋々と愛用している銃を下ろす。
はあ、と少しのため息を吐いたなゆは後ろを向くと一言。
「で、ハロウィンって何?」

その場が一瞬凍りついた様に固まった。
そして雛の「ふひっ」という可笑しな笑い声が一つ聞こえてきた。
「…なんで雛は笑っているの」
「だって、なゆちゃん…、ハロウィン知らないんだもん…!!」
ひーひー、と笑い転げる雛に今度はなゆが銃を向ける。
「さあ、答えろ」
「う、わああああああちょっとちょっと!!!!ガトリング銃はなしだよ!!!!やめ!!!!!」





「っていう事なんだけど、おわかり?」
「…まあまあね…。外の人たちはお気楽な行事を考えるものね」
雛を脅して強制的に説明をさせた雛はあまり納得した表情をしなかった。
『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』
Trick or Treat』
それでその単語なのか、とそれだけに納得をする。
だが、お菓子を持ってない人たちに悪戯をするというのはあまり合意ではない。
流石に気がひける内容な行事である。
「まあ、やらないけどね」
「あ、やらないの…」
だって仕事があるし、と一言で会話を終わらせたなゆは立ち上がって会議室を後にした。
颯爽と消えていったなゆに誰もが笑えない状況である。
そこで雛が一言。
「…でもまあ、なゆちゃんの面白い一面見れたし、いっか」
「いや、よくないわ」




「八雲ー!とりっくおあとりーと!です!」
先程とは全然比べ物にならない?拙い英語が聞こえてくる。
「ん、イラズラだけはよしてくれよ」
八雲が楽しそう(なゆにはそう見えた)な表情でポケットから小さな包みを出して暁に渡していた。
暁は「ありがとう、です!」と言ってさっきなゆが入って雛を脅して出てきた会議室の方向へ向かっていった。
「…なんか意外」
「は?」
八雲が暁と話しているところを見たことがないというのもあるが、なんとなく違和感があった。
「おいおい、俺だってちゃんと小さい子には優しくするさ」
八雲が呆れた様になゆの話す。
なゆは一言、うん、わかってる、と言ってまた歩き始める。
私だけが知らなくて、なんとなく嫌気がさす。
そこで暇つぶしに二トラのラボに向かった。




「あり?珍しいお客さんだわ」
二トラの変わらない陽気な声が聞こえる。
今日に限って二トラがまともに見えてしまうくらいになゆは疲れていた。
ここのところ任務付けでちゃんとした休息をとっていなかったせいである。
二トラはそんななゆを見て、「ベッドあるし、そこで横になって寝たら?」と声をかけた。
なゆはふらふらと二トラのベッドで横になる。
誰も寝ていなかったからか、丁度良い冷たさ。
「…二トラはハロウィン知ってる?」
力なく話しかける。
聞こえにくい二トラの声が耳に入る。
「知ってるっちゃ知ってるけど、流石にもう言わないかなー」
ああ、そうか。二トラはもうそんな幼い年齢ではなかったか。
重くなる瞼をこじ開けて最後に一言、二トラに言いたかった。
「…二トラ、Trick or Treat…」
二トラの笑う声が聞こえたところで、私の意識はふっと遠くへと飛んで行った。





起きた時には二トラはいなくて、代わりに私の手には小さなお菓子の包みが握らされていた。



あのね、少し、嬉しい、なんて思ってないよ。