鼻歌
「〜♪」
私の隣にいる相棒が鼻歌を奏でる。
いつもはむっつりとした無愛想な奴で、鼻歌すら歌わない可愛げのない相棒が、珍しく鼻歌を器用に奏でる。
「ご機嫌だねぇ、なゆ。何かあったの?」
隣で気持ち良さそうにそよ風にあたるパートナーに話しかける。
彼女は他には見せないあどけない笑顔で、「そんな風に見える?」と応えた。
「ほら、鼻歌なんか歌わないからさ…。珍しいなーと思ってね」
「…何か…ね…。なんか、久しぶりに『幸せ』なんて感じたから…」
彼女は切なげに、そして何処か遠くを見るように言葉を紡ぐ。
幸せなんて随分昔に捨てたと思ってたのに、と言う。
ああ、そうか。「問題児」なんて勝手に呼ばれて、出たくもない戦場に連れて行かれ、そして何も知らずに戦う少年少女に「幸せ」なんて概念はないのか。
そう思えば私はまだ「幸せ」だった。ただただ、武器の整備や戦闘機やらの整備をするだけで肝心な戦場に出ない私なんかいなくても変わらない存在だから。
「…そっか、良かった」
私はふっと、なゆを見ながら笑った。
聞こえていないのだろう、反応が返ってこない。
…本当に何もない日が続けばいいのに。
彼を、彼女を空の上に連れて行かないで。
「幸せ」を知った彼女を、私に初めて心を開いてくれた彼女を、どうか、神様。
連れて行かないで。
…また暗い独房の中で独りにしないで。