天才学者の戯言
この優しい嘘で固められた世界をどうしても好きにはなれない。
科学者でしかも逃亡の身だからそういう感覚になったというわけでもないし、ましてや麻薬を飲んだとかいうわけでもなかった。
あの嘘つき少女に会ってからだ。
自称「カミサマ」を唱えてはこの世界の天才にすら解けなかったような阿呆らしい難問を解く姿に一旦目を置いたがそれがいけなかった。
この「世界」がある方が可笑しい。
そもそもこの世界にいる前にいた世界の記憶があることがまず可笑しかった。
早く気付けたんじゃないのだろうか。
何故早く気づこうとしなかった。
『裸のカミサマ、アイツを引きずり降ろすの』
頭の中にひび割れるような声が響く。
まだ間に合う。間に合うはずだ。
あの体に見合わない大剣を振り回す少年を助けるためにまだ生きなくちゃいけない。
「カミサマを引きずり降ろす前にまだやるべきことがある」