体温
ほんの少しの出来心だった。
『彼の手を握ったらどういう反応するのか』
本当に少しの悪戯心でもあった。
後ろから抱きしめたり、唐突にキスをしたりすると普段は見せない真っ赤な顔見せてくれるから。
きっと手を握ったら同じように可愛い反応を見せてくれる。
だけどあんなことになるとは一ミリも思ってなかった。
「なあ、ミラージュってなんで手袋着けてんの?」
いつも通り顔下げて仕事をしている赤髪の彼に話しかける。
彼は予想通り顔を上げずに「手汚れるし、落ち着くからさ」と返した。
やっぱりずっと着けてると落ち着くのかなーとか思う。
彼が手袋を外したところを見た事がない。
取り敢えず外してもらおうと思う。
「手袋、外してみてよ」
彼はしかめた顔をこっちに向けた。
「なんでだよ」
「や、外したとこ見たいしー。お願いだよ」
最初は嫌がったものの、ずっとおねだりをしてるとさすがに煩かったらしく、呆れた様に「今日だけだからな」と言って手袋を外し、近くにあった机の上に置いた。
機械いじりするとはとても思えない奇麗な手だった。
「可愛い手だね〜」
俺が茶化すと彼は「うるせえ」と言って俺に背を向け、仕事に取り掛かった。
その隙をついて「おらっ!」と声を発しながら思い切り手を引っ張った。
「うわっ!!」
彼は引っ張られた事に驚いき、声をあげた。
手袋を外した手を握った。
暖かい、そう思っていた。
「…!?」
「…っ!!離せ!!!!」
思い切り手をはじかれた。
呆然とそのまま立ち尽くす。彼から見れば抜け殻の様に見えるだろう。
彼は眉間に皺を寄せて、「帰れ!!!!!今すぐにだ!!!!」と言って自室に入って行った。
俺も数分してラボを後にした。
…冷たかった。まるで、死んだ人の様に。
………まるで機械の様に。