君の魔法
「なんてとこで寝てるの…」
昼だった。
昼ご飯も食べずに屋上で気持ちよく寝ていると、私の眠りを妨げる奴が来た。
フィリップ・スタビティ。
彼は私と同い年で、成績優秀、おまけに女子にも人気のある憎たらしい生徒だ。
女子に人気があるということは、別にどうでも良いのだが、成績がおぼつかない私にとっては色んな意味で憎たらしい。
「寝てなんかないさ。君にかける新しい悪戯を考えていたところだよ」
なんとなく、嘘を吐いてみる。
でも絶対にバレているんだろうな、とかも思う。
「嘘だね。涎の跡がついてるよ」
ほら、彼は寝起きの私の嘘だけは簡単に見破れる。
「え、涎ついてる?」
取り敢えず、口に付いている女子にはいらない飾りの涎の跡を拭き取る。
そして立ち上がる。
屋上で寝ていたせいか、自分が来ていたブレザーが汚れていた。
なんとか払おうと、呪文を言おうとした時。
「スコージファイ」
聞き馴れた声がした。
そう、フィリップの声だった。
「何よ、自分でやろうとしたのに」
「人の親切を素直に受け取ろうよ、そこは」
何故だかこいつに借りがあるのは私のポリシーに反する。
でも払ってくれたのだ。
お礼くらいは言える。
「…ありがと」
「よくできました」
子どもをなだめる言い方に腹が立ち、静かにチッと舌打ちをした。
彼に聞こえていたらしく、あからさまな溜め息を吐いていた。
別に気にしない。
そして立ち上がっていた二本の足を動かし、屋上と下の階の通路を繋ぐドアへと向かった。
「待て、一緒に行こうよ。ヴィオラ・P・ミスティ」
「…あんたにフルネームを呼ばれる筋合いなんて無いわ、フィリップ・スタビティ」
「なら僕も、君にフルネームを呼ばれる権利なんて無いよ」
そんな愛が入っているか入っていないかわからない痴話喧嘩をしながら、私たちは自分たちの教室へと、足を運んだ