小説と独り言

趣味で書いているオリジナルキャラの小説と、なんか愚痴ってます

きずあと

たまに、感覚のないはずの足が痛む。
何故だかはわからないけれど、凄く、凄くずきずきと痛む。
小さい頃交通事故にあい、首の骨を壊した。
幸いな事に、上半身までは動いてくれるのだけれど、歩くのに一番必要な足が永遠に、二度と自ら進む事をやめてしまった。
それ以来ずっと車椅子での生活を強いられた。
最初の頃は不便でままならくてお風呂もトイレも一人で行けなかった事をよく覚えている。
泣きじゃくりながら練習をして高校生になった今は一人でお手洗いに行くことができる。
首も骨を壊したから体調の変化が激しく、手伝って貰う日も数え切れないほどあったけれど、それでもちゃんと生活できるほどに成長できた。
変われることができて嬉しかった。
それなのに。
「ごめん」

ずっと謝ってくれている。
ずっと私の側にいてくれる。
あなたのせいじゃないはずなのに、あなたが悪いわけじゃないはずなのに。

あの日、私の世界が一変してしまったあの事故の日を、彼はずっと悔やんでいた。
小学生最後の一ヶ月、桜の蕾がぽつぽつと増え始めた頃に私は幼馴染の彼を呼び出した。

「悠真、たしか陸上の強い中学に行くんだよね」
元から明るかった彼の、小鳥遊 悠真の髪が春風に揺れている。
「…うん、だから祈とは中々会えなくまるけど、休みにはこっちに帰ってくるから、大丈夫だよ」
大好きな悠真の優しい笑顔、私が今の学校に転校してきた時から変わらない、悠真の笑顔。
大丈夫だよ、その言葉に決心が揺るぎそうになる。
だめだ、決めたのに。悠真は違う道に進むのだから、頑張れ、私。
「そっ…か…」
私は顔を俯かせた。
嫌われる事を覚悟して、優しい悠真の最後の笑顔を脳裏に焼き付ける。
「ねえ、悠真」
「…なあに?」
震えて小さくなる声を振り絞って、拳をぎゅっと握って、顔を上げる。
「中学に行ったらね、私の事、忘れてほしいの」
ざああ…と木の靡く音がする。
悠真の唖然とした顔にそっと微笑み。
その顔はすぐに険しい顔になって、「なんで、なんで忘れろなんて言うんだよ!」と、珍しく声を荒げた。
瞳に涙が浮かび上がりそうになるのを必死に堪えて、私は思い切り息を吸った。
「陸上を本気で目指すんでしょう!なら、その道に私がいたらきっと、大事な選択の時に邪魔になっちゃうよ!だから、」
悠真の険しい顔を見るのが辛い、出来ることならもうここから逃げてしまいたかった。
だめだ、ちゃんと最後まで伝えよう。
「だから、お願い…私を忘れて…!」
心がずきずきと痛む。
悠真が私を救ってくれた。
都会の学校から転校して田舎の学校のクラスで一人浮いていた私の友達になってくれたのは、まぎれもない悠真だった。
その恩人である悠真を今度は私が引き離そうとしている。
勝手だってわかってはいた。
だけど、大切な夢を私のせいで諦めて欲しくない。
悠真の夢は私の夢だから。
彼の険しい顔は段々と歪み、泣きそうになっていた。
「なんで、どうして…!俺…俺は…!」
そしてすぐに私の方へ向いて、悠真が叫んだ。
「祈のっ、ばか!!!」
それは捨て台詞だった。
そのまま後ろを向いて駆け出した悠真。まだお別れ言っていないのに、まだ行かないで、ちゃんと、訳を話させて!
「悠真!待って!!」
すぐに走って追いかける。
必死で走って、走りまくって、悠真が届きそうというところで。
クラクションが盛大に鳴り響いた。
「悠真!!!!!!!!」



一瞬だった、私たちの、いや、軽い私の体が綿のように浮かんで地面に叩きつけられたのは。
クラクションが盛大に響いた瞬間に、私がは悠真の腕を掴んで後ろに引っ張った。
その反動で私は道路に投げ出せる形になり、小型トラックと衝突した、
体が動かない。
頭がボーッとする。
大好きな悠真の声が響く。
よかった、怪我してなさそうだね。
これでまだ走れるね。
「もっと…はしって…」


それから悠真は陸上の道に進むことをやめた。
やめなくて良かったのに、諦める必要なんてどこにもなかった。
笑わなくなって、心を閉ざしてしまった。
悠真のせいじゃないはずなのに、いつも私を見ては苦しげな顔を見せ、そっぽを向く。
それがどうしようもなく悲しくて、痛くて、苦しくて。
悠真はあの日以来、ずっと「ごめん」と言い続けることになった。
そうしてしまったのは誰でもない。
紛れもなく、自分勝手な選択をして結果悠真を一生拭えることのない傷を負わせてしまった雪村 祈、私だった。