依存
二人には恐怖という感情があった。
自分が誰なのか、何者なのかという恐怖と、ある過去の記憶に捕らわれて逃げ惑う恐怖。
それが二人を構成していた、二人を鎖で縛っていた。
お互いに依存し合い、傷を舐め合い続ける事で取り敢えずは関係を保っていた。
ただ何かに恐れて一人を傷つける青年と、ただ殴られるがままにされる青年。
歪だったけど、それは愛と言える。
了承しあえる仲なのだから、それは二人にはとって良い事なのだろう。
周りから見れば恐らく理不尽でただただ歪な関係だけど。
ただ一人は幸せだった。
傷に気付くことができないで同じ傷を増やして いく青年には仲間がいた。
自分が死のうとすれば悲しんで止めてくれる、そんな優しい人達がいる。
幸せなのに、自分の傷に気づくことができない、そんな幸せな青年。
自分を愛してくれる人、大切に思ってくれている人、親しくしてくれている人、悲しんでくれている人、喜んでくれている人、沢山いた筈なのに。
その気持ちが、彼には解らなかった。
人の醜さなんて否が応でも見て、知って。
頭が良かったから孤独に苛まれて。
どうしようもなく、怖くて、不安で。
誰に頼ればいいのかもわからず、どれだけ泣けばいいのかもわからずに死を見つめていた。
彼が死んだ時、始めて「生きている」と感じたと思う。
織田作之助、料理が上手で少し豪快で、笑顔が少し可愛くて不器用で、ムカつく少し嫌な奴。
其奴が死んで少し心に大きな穴が空いた気がする。
そう願っていた筈なのに、そうなって欲しいと思っていたのに。
いざ、その時が来ると僕は何をしたらいいのかわからくなった。
結構な確率で依存していたのかもしれない。結局僕も彼奴も何をしたかったのは解らなかった。
だから、今また僕は、彼奴から貰った命を無碍にしようとしている。
そういう物だ、命とは。そういうものだ、自分とは。
太宰治、とは。